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名古屋高等裁判所 昭和44年(ネ)201号 判決 1969年12月24日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四三年六月二〇日から支払済まで年六分の割合による金員を支払え(主位的請求)。かりに右が理由ないときは、被控訴人は控訴人に対し金二〇〇万円およびこれに対する昭和四三年六月二一日から支払済まで年三割の割合による金員を支払え(予備的請求)。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、次に附加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張)

かりに、被控訴人において訴外後藤善衛と共同して金額二〇〇万円の本件手形を振出したものでなく、また被控訴人において右後藤善衛の控訴人に対する金二〇〇万円の債務につき連帯保証をしたものでもなく、右振出および連帯保証は右善衛の無権代理行為であるとしても、善衛は被控訴人の実弟であるうえ、被控訴人は右連帯保証の際には善衛に対し自己の実印、印鑑証明書および自己所有名義の土地の登記済証を手渡していたものであり、しかも控訴人は善衛の控訴人に対する債務のため担保に供された右土地につき善衛が控訴人からその贈与を受けていたとの事実は告知されていなかつたのであつて、右事情から控訴人としては、善衛において前記手形の振出および連帯保証につき被控訴人の代理権を有するものと信じたのであり、しかもこのように信ずるにつき控訴人に過失はないのであるから、民法の表見代理の規定により、被控訴人は控訴人に対し本件債務を負担するに至つたものというべきである。

(被控訴人の主張)

被控訴人は訴外後藤善衛に対し同人と控訴人との間における取引に関して代理権を与えたことおよび代理権授与の表示をしたことは全くない。すなわち、被控訴人は、実弟である右善衛に対し自己所有の土地一筆を贈与し、善衛から右土地の登記手続をするのに必要であるので実印、印鑑証明書および土地の登記済証を貸して欲しい旨要求され、右要求に応じてこれを善衛に手渡したところ、善衛は、被控訴人の承諾を得ないで右実印等を使用して本件連帯保証契約を締結したうえ、右土地の所有名義を被控訴人から自己名義に移転しないままこれを控訴人に対し担保として提供したのであるから、被控訴人において表見代理の責を負うべきいわれはないのである。

証拠(省略)

理由

一、主位的請求について

控訴人は、被控訴人はその実弟である訴外後藤善衛と共同して昭和四〇年五月二〇日控訴人に対し金額二〇〇万円、満期昭和四三年六月二〇日、支払地振出地とも桑名市、支払場所信用組合三重商銀なる約束手形一通(甲第一号証)を振出した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はないのみならず、却つて、原審および当審における証人後藤善衛の証言および甲第一号証中の被控訴人名下の印影によれば、甲第一号証中の被控訴人の氏名は善衛が被控訴人に無断で記載したものであり、またその名下の印影は善衛がその妻の父である訴外井上城太郎の印鑑を押捺したものであることが認められるので、控訴人の右主張は採用することができない。

次に控訴人は、本件手形の振出行為は被控訴人の実弟である善衛のなした表見代理行為である旨主張し、善衛が被控訴人の実弟であることは被控訴人の認めるところであるが、この事実のみから善衛の振出が表見代理となるいわれはなく、他に表見代理を認めるに足る証拠はないから、控訴人の右主張も採用することができない。

したがつて、被控訴人が本件手形の振出責任を負ういわれはないから、控訴人の主位的請求は理由がない。

二、予備的請求について

控訴人は、被控訴人は昭和四一年一二月二日控訴人に対し後藤善衛の控訴人に対する現在および将来の債務元本極度額金二〇〇万円ならびにこれに対する年三割の割合による遅延損害金につき連帯保証をなしたものであり、善衛は控訴人に対し前記金二〇〇万円の手形金債務を負担している旨主張し、甲第二号証(根抵当権設定契約証書)の担保提供者兼連帯保証人欄および甲第三号証(停止条件付代物弁済契約証書)の担保提供者欄には、被控訴人の氏名が記載(タイプ)され、その名下に被控訴人の印章が押捺されている。そして、右甲第二、三号証中の被控訴人名下の印影が被控訴人の実印によるものであることは被控訴人の認めるところであるが、原審および当審における証人後藤善衛の証言ならびに原審および当審における被控訴人本人尋問の結果によれば、被控訴人は昭和四一年一一月以前に善衛に対し自己所有の土地一筆を贈与していたこと、善衛はかねて控訴人から融資を受けていたものであるが、右昭和四一年一一月頃に至り控訴人から物的担保の提供方および保証人を立てることを要求されたこと、そこで善衛は被控訴人に対し右譲受土地の所有権移転登記手続をするのに必要であるからと称して被控訴人からその実印、印鑑証明書および土地の登記済証の交付を受けた(被控訴人としては土地の所有権移転登記手続をするものと信じて善衛に対し実印等を交付した)こと、しかるに善衛は右土地を自己の所有名義とする手続を省略したまま、被控訴人の承諾を得ることなく右実印等を使用して被控訴人が担保提供者兼連帯保証人である旨の甲第二、三号証を作成したものであることが認められるので、甲第二、三号証中の被控訴人の記名押印をもつて被控訴人の意思に基づくものということはできない。したがつて、甲第二、三号証中被控訴人作成名義の部分は真正に成立したものということができないから、右書証をもつて被控訴人が本件連帯保証をしたことを肯認する資料とすることはできないし、他にこれを認めるに足る証拠はないので、控訴人の右主張は採用することができない。

次に控訴人は、善衛は被控訴人の実印、印鑑証明書および土地の登記済証を所持していたのであるから、被控訴人は本件連帯保証につき表見代理の責を負うべきである旨主張する。しかし、被控訴人が善衛に対し右実印等を交付したのは、先に認定したとおり、被控訴人が善衛に対し贈与した土地の所有権移転登記手続という公法上の行為をなすことを委任したためであることが明らかであるうえ、被控訴人において善衛に対し私法上の代理権を授与したことないしは本件連帯保証につき代理権授与の表示をしたことを認めるに足る証拠はないから、控訴人の右主張も採用することができない。

したがつて、被控訴人が善衛の債務につき連帯保証責任を負担することを前提とする控訴人の予備的請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三、以上のとおり、控訴人の本訴請求はいずれも失当として排斥を免れず、これと同旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

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